網膜静脈閉塞症

網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)とは、血圧が高い高齢者に起こりやすく、網膜にある静脈の血管が詰まって血液が流れなくなる病気です。眼底出血を起こす代表的な原因の1つでもあります。

静脈は、網膜では全体に枝分かれするように広がっています。それらが眼球の後ろにある視神経乳頭に集まって1本となるのですが、枝の部分が閉塞した場合を「網膜静脈分枝閉塞症」、乳頭部にある根元が閉塞した場合を「網膜中心静脈閉塞症」と呼びます。

静脈が詰まると、そこまで流れてきた血液の行き場がなくなるため、血液が血管からあふれ出して眼底出血や網膜浮腫(網膜が腫れる)を引き起こします。眼底出血が起こると、その部分の視野が欠けてしまいますし、網膜浮腫の場合は視力が低下します。特に網膜のほぼ中央にある「黄斑」で出血や浮腫が起こると、視力は極端に低下してしまうため注意が必要です。
網膜静脈閉塞症のリスクが高い方
・50歳以上の年配の方
・高血圧による動脈硬化を起こしている方
・血管自体に炎症のある方
・糖尿病などにより、血液の粘性が増している方
網膜静脈閉塞症のリスクが高い方

網膜静脈閉塞症の症状

  • 突然の視力低下
  • 視野異常
  • 視野の歪み など
ただし、症状が軽い場合は自覚症状がないこともあります。

網膜静脈閉塞症の種類

網膜静脈分枝閉塞症(もうまくじょうみゃくぶんしへいそくしょう)

網膜静脈閉塞症のうち、8割以上がこの「分枝」での閉塞症です。

網膜はとても薄い組織であるため、動脈と静脈が交叉しているところで動脈硬化が起きると、血栓が形成されます。これは、静脈が影響を受けることで、血管が狭くなったり流れが悪くなることが原因です。

網膜静脈閉塞症の多くは、このように動脈・静脈の交叉部分に血栓ができ、血流が遮られることで起こります。行き場を失った血液はあふれて出血や浮腫を引き起こし、出血した部分は網膜まで光が届かなくなります。そうすることで、部分的に視野がさえぎられてしまうのです。

出血自体は時間をかけて引いていきますが、その後どの程度まで視力が回復するかは、黄斑への障害の程度によります。一般に閉塞した部位が乳頭に近いほど障害が重くなり、逆に末端静脈からの出血で範囲もごくわずかであれば、発症そのものに気付かないこともあります。

網膜中心静脈閉塞症(もうまくちゅうしんじょうみゃくしょう)

分枝閉塞症と異なり、静脈の根元が閉塞してしまうのがこの網膜中心静脈閉塞症です。

根元が詰まるため、影響は網膜全体にまで及びます。また、黄斑を含め眼底一面に出血と浮腫がおこり、視力はかなり大きな障害を受けます。

網膜静脈閉塞症のレーザー治療

網膜静脈閉塞症障は、レーザーを照射しながら治療を行います。ただし、急性の場合と慢性の場合では、治療法がことなるため詳しく解説します。

急性期

急性期の治療で重要なことは、閉塞してからできるだけ早く治療を開始することです。網膜出血や網膜浮腫の早期消失をめざし、レーザー光凝固術を用いますが、閉塞した血管の血流を再開させるため、血栓溶解薬や網膜循環改善薬も点滴や内服を併用しながら治療を行います。また、再発を防ぐため、血小板凝集抑制薬、抗凝固薬を用いることもあります。

閉塞は片眼に発症することが多く、普段は両眼で見ているために気付かないこともよくありますが、治療開始の遅れは視力が回復しにくく、合併症のリスクも高くなるため注意が必要です。

慢性期

発症後3か月から1年以上経過した慢性期の場合、新生血管が生まれそうな部分や改善していない浮腫を蛍光眼底造影検査で見つけ出し、早期に凝固することが大切です。血流が途絶えているところにレーザー光凝固術を使って新生血管の発生をおさえ、血流改善のため網膜循環改善薬を用います。また閉塞を起こす原因となっている病気(主に高血圧)を治療することも重要といえるでしょう。

硝子体出血や網膜剥離が見られる場合は、手術を行う必要があります。嚢胞様黄斑浮腫(のうほうようおうはんふしゅ)に対しては、抗VEGFの硝子対注射で治療を行います。

網膜静脈閉塞症の注意

網膜静脈閉塞症障は、動脈硬化や高血圧が主な原因となるため眼科以外に内科の治療を同時に行う必要があるケースも少なくありません。予防策としては、規則正しい生活や食事制限・適度な運動などを心がけることも重要です。

網膜静脈閉塞症は、黄斑に大きな影響を与えてしまうと視力の回復が難しいです。また、慢性期には網膜剥離や硝子体出血・血管新生緑内障などの合併症の恐れもあることから、定期的に眼科検診を受け早期発見・早期治療を心がけることが網膜静脈閉塞症の注意点といえるでしょう。

網膜静脈閉塞症の治療費

網膜静脈閉塞症の治療には、健康保険が適用されます。また、医療費が高額になった場合は高額療養費制度を利用できる場合があります。高額療養費制度の上限金額は、家族構成や年齢・所得などに応じて定められており、いくつかの条件を満たす必要もあるため、詳しくは厚生労働省のホームページでご確認ください。
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